非正規雇用問題の本質

 2006年8月6日にこの随筆欄でワーキングプア問題を紹介した。ワーキングプア。この問題に政府はどう対応するのか。
 最近では、アメリカのバブル崩壊で派遣労働者切りが問題になった。昨年末に住み場所を失った人達のために、この随筆でも紹介した『反貧困−「すべり台社会」からの脱出』の著者の湯浅誠氏は、「年越し派遣村」村長として住居の確保に活躍した。

 不況による大手企業の派遣労働者の契約解除について「派遣労働者は最初から切られるのを承知で契約しているのだから当然のことではないか文句を言うのはおかしい。」 という声を身近でも聞いた。まあ、契約というならそうかもしれない。

 しかし、私が言いたいのはもっと根本的な問題である。年収が200万円にも満たないような非正規雇用労働者の存在を認めて、将来、日本がまともな国として存在することがはたして可能なのか、ということである。労働者の3人に一人が非正規雇用で、その大半は年収200万円未満。年収200万円未満では、結婚することも難しく、年金に加入するのも苦しいであろう。事実、国民年金の納付率は60%程度にまで落ちている。もう破綻しているといっても良いだろう。もう直ぐ、一人の高齢者を2人の現役世代が支えなければならない時代が来る。現役世代の3人に一人が非正規雇用で自分自身が食っていくだけで精一杯の状態でどうして高齢者を支えることができるのか。

 入社試験の面接には、30代の頃から出ていた。今でも時々、面接することがある。履歴書にずらっと会社名が書いてあることが多くなった。派遣の契約切れ、会社の倒産等による短期間での転職の繰り返し。
 面接をしていてもこちらが暗い気持ちになる。一歩間違えば、いつ同じ境遇になるかもしれない。面接する側とされる側は、紙一重である。よく考えると私も現在の会社が4社目である。

 しかし、どうして人間は弱い人を見て、さらに蹴落とそうとするんだろう。ホームレス、公害被害者等は皆、世間からいじめられてきた。斎藤貴男著「分断される日本」のなかにハンセン病回復者たちが黒川温泉のホテルに宿泊拒否された事件をめぐって、彼らを罵倒した資料が載せられている。そのひとつを抜粋する。
<皆様に不足しているのは「感謝」と「謙虚」の心ですよ。わかりますか。皆様の医療費、生活費は我々労働者が経済活動をした血と汗と涙の結晶、税金ですよ。/税金で生活しているすべての議員、役人、そしてハンセン病の皆様、これを特権階級と言うのです。/誰のお陰で飯が食べられるのか、治療が受けられるのか、素直に考えてください>・・・・・・。

 自分の不勉強と無知が原因で弱者を罵倒する馬鹿市民。こういう人間が多すぎる。ハンセン病患者を特権階級と本当に考えるなら自分がハンセン病になったらよい。まだ、世界では年間に25万人程度新規患者が発生するそうだから。そういえば、先日のアンケートで小泉を支持する率が50%以上あったんだっけ。これから日本がどうなるか、本当に分かっているんだろうか。

 私は、この非正規雇用の問題は日本の将来にとって非常に重要な問題であると思う。一部富裕層の目先の利益だけを求めて、多くの労働者を奴隷状態に貶める社会にするのか、それとも全うに働けばちゃんと安心して生活できる社会にするのか。

(2009年2月22日 記)

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